１６年前の１２月、あまりの寒さに電車で出かける予定を車に変えた。駐車場まで行き車に乗り込もうとして、目的地に着いてから降ろせば良い荷物を、何故か先にトランクから出そうと車の後にまわった。足下に読売新聞の袋（古新聞を入れるやつ）。

「なんだよ〜こんな所に新聞捨てるなよぉ〜」と言いながら中をのぞくと・・・・・・

怯えた子犬と目が合った、それがナナとの出会いだった。

「拾うだけ拾って来て世話もしないくせに！」という家族の文句を浴びながら１６年。

元気だったナナも今年逝った。

　

　実を言うとナナを拾って来た時、既にココという２年前に拾って来た犬がいたのだよ・・・・・

更にナナを拾う３日前に怪我をしたインコを道で拾い、看病のかいもなく（看病は俺がする訳も無く母がした）死んじゃったので、高校から帰って来た弟が「うおぉ〜今度は犬が死んでる〜」と、綺麗に洗われてストーブの前で寝ているナナを棒でつついた位・・・

 

全ての出会いは偶然じゃ無いっていう。だからみんな理由があるんだね。

ありがとうナナ

 

　そんな今年がもう終わろうとしている、自分にとって本当に節目になる一年だった。

素直に自分の事を見直す事が出来たのだろうか？

倒れなければきっと今まで通り、何も考えずに突っ走っていたんだろうな。

倒れたことは身体の自由を奪う事と引き替えに、多くの出会いを与えてくれた。

人生の勉強をさせてくれた。

 

Ｍ病院のリハビリ室、多くのお年寄りとの出会いが忘れられない。

「クロさん」「クロちゃん」みんなそう呼んでくれた（そりゃ頭に書いてあるもんね）。

 

お風呂場で転んで腰の骨を折ったり、手をついて骨折したり。

身体だけじゃ無くてみんなみんな悩んでいる。

あるお婆ちゃんは、娘の世話になっている肩身の狭さを語り。別のお婆ちゃんは嫁との確執を。自分の部屋が無く、受験勉強中の孫が居るために帰り辛い話。家族に少しのお金もかけさせたく無いためリハビリ用運動靴の購入をためらう老人。

でも家族が居る人はまだ幸せだ・・・・・

ある一人暮らしのお婆ちゃんは遠くから弟（弟といってももう８０近いお爺ちゃん）が来て、見るに見かねて引き取った。

しかし弟さんのお嫁さんの反対で再び病院に戻って来た。

その時のお婆ちゃんは、ショックからか口もきかなくなっていた。

現実は残酷で厳しいのだ。

 

ある大正生まれのお婆ちゃんは「あんたぁ良い男だぁ見ればわかるわぁ」と言って女の口説き方と別れ方。良い女悪い女の見分け方を教えてくれた。今までつき合った事のある女性と照らし合わせてみると、確かにそれは理にかなったものだった。

（これは超極秘資料なので絶対言わないもんね〜）

今の世の中、優しくて可愛ければ女だと思いこんでるバカ男バカ女が多すぎる・・・・・

それまで好きな事をやっていた女が３０歳を過ぎた途端に、いきなり結婚に焦りはじめてくっつのが早い事。

「雑誌に出てくる様な家具を並べて外車買って、それで幸せになれたと勘違いしているのは本人達だけさぁおめでたいねぇ♪ハイそれま〜で〜よ」とお婆ちゃんは歌入りで話してくれた。

 

また他のお婆ちゃんは若いとき超一流高級クラブのトップホステスとして働いていた時の話をしてくれた。

 

「クロちゃん、日本で最高級の繁華街は何処だかわかるかい？」

 

「やっぱ銀座かなぁ？」

 

「銀座は二流なんだよ、一流は今も昔も北新地。そして日本の政治の流れは東京でも大阪でも無く、京都で全て決まるんだよ」

 

と彼女は教えてくれた。

 

「あ〜タバコが吸いたいね〜マルボロが・・・昨日夢の中で壁じゅうが真っ赤にマルボロで埋まってる夢見たよ」と笑った顔が目に焼き付いている。

病院内では来訪者用に喫煙室はあってもタバコは売っていない、ましてマルボロ。

彼女が家族の都合で転院する少し前、俺は看護婦に頼んでマルボロを入手、彼女に届けた・・・涙・・・そんなぁタバコ位で泣かないでよ・・・

大正ロマンを教えてくれた、チャールズブロンソンが最高に良い男だって言うその彼女がとても尊い存在に思えた。

女を捨てないっていう事はこういう事だったんだなぁと思った。

元気にしてるかな、お家に帰れたかな、一日でも長生きしてほしいな。

この世を去るその日まで、きっと彼女は女であり続けるだろう。

彼女は９０歳近くの今でも超高級クラブのトップホステスだと俺は思った。

 

Ｍ＆Ｊ病院の先生やナース達、鶴英さんはじめこのホームページに出入りしてくれてる人に出会えたのも、偶然では無いんだ。

 

みんなみんなありがとう、本当にありがとう。

ここでお会いする全ての人に幸せがいっぱい訪れる２００４年であります様に！

 

 

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　拾った時のナナ