くろじいの小屋
COLUMN


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41  象  徴            2004. 2.29
群馬県太田市に中島飛行機という航空機メーカーがあった。
中島飛行機は零戦&隼のエンジンや数々の戦闘機を生み出した老舗である。
戦後、連合軍の命令により会社はいくつかに分割された。
その一つが富士重工(スバル)であり、後に何度も社名変更と合併を繰り返しプリンス自動車工業となる富士精密工業だった。
 
終戦当時連合軍は日本国内での自動車生産を禁じていた。
航空機メーカーなどの技術者達は皆その手腕を持てあましていたのである。
 
これは同じ敗戦国、ドイツやイタリアでも同じ事。
飛行機エンジンを造っていたBMWやダイムラーも例外では無かった。
 
その禁制も解けた昭和27年。富士精密は初めてのガソリン乗用車の開発に成功する。
 
車名は「プリンス」。
この年、皇太子明仁親王(現天皇)の立太子礼が行われるのにちなんで、新型車の社名は当初「皇太子」の正式名称である「クラウンプリンス」になる事が決まっていた。
しかしそれではあまりにも長すぎるというので、クラウンを取って「プリンス」(王子)に落ち着いたのである。皮肉な事にその3年後トヨタから「クラウン」が発売される。
 
それは発売した「プリンス」が大変好評で、プリンス自動車工業に社名を変更した頃の出来事であった。
 
「プリンス自動車工業の車を購入したいので来られたし」
 
宮内庁からの打診に社内は蜂の巣をつついた様な騒ぎになったという。
それも公用車としてでは無く皇太子が自ら運転するという。
 
納車された車は社内公募で名前が決まったばかりの初代「プリンススカイライン」
 
「軽井沢に搬送するのでよく整備をしておいてほしい」
 
その後この軽井沢でのプリンス自動車の活躍があってか皇太子はご成婚される。
そしてご成婚を記念して「栄光」を意味する「グロリア」が発売されたのである。
 
昭和も40年に入り、技術面ではトヨタや日産に圧倒的な優位に立っていたプリンス自動車であるが、海外のメーカーと対等に戦えるようにとの政府の後押しで日産自動車と合併が決まるのである。
こうしてプリンス自動車の社名は消えていった。
ご存じのように日産自動車は近年大きな経営危機を迎えた。
着任したカルロスゴーンは社員に問うたという。
「日産にとっての象徴とは何か?」
その答えは「海外におけるフェアレディーZと国内のスカイラインGTR」というものだった。
あろう事かその時既に日産は次期フェアレディーZとスカイラインの開発中止を決定していたという。
こうしてアイデンティティーを捨てようとしていた日産はZ、GTRの復活を決定したゴーンの手によって奇跡的に蘇る事が出来た。
 
象徴や名前とはこうして相手の心まで惹き付ける大切な物なのである。
 
確かにカルロスゴーンの手腕は素晴らしい。
ただ何故あの時に別の方法がとれなかったのか?
銀行が潰れそうになる時だけ血税を投入し、戦後の日本を支えて来た大メーカーをたった?5000億円で海外に売ってしまうのだろうか?葛藤や苦渋があろうとも政府の後押しでトヨタと合併させるべきだったのでは無いか?
そうすれば今頃世界一の自動車メーカーになっていたに違いない。
トヨタが本当に恐れていたのはホンダではなく日産の技術力だったのだ。
その技術の散逸は本当にもったいない話である。
 
宮内庁には特別な来賓があった時などだけに使われる車がある。
プリンス自動車に特注で造らせた「プリンスロイヤル」
観音開きドアの黒塗りのその車はとても壮観だ。
しかし40年近くの歳月が古さを感じさせる。
大喪の礼の時、このプリンスロイヤルの霊柩車版が初めて人前に姿を現してビックリした。
40年前に秘かに製造され、皇居の中で誰の目にも触れること無しに皇族が亡くなった時の出番を待っていたのだ。そう考えるとちょっと怖い。
 
老朽化したロイヤルはそろそろ新型を造る次期に来ているのは間違いない。
伝統に則って日産に造らせるのか、純国内メーカーであるトヨタに発注するのか非常に興味深いのである。
 
余談である(まぁこのコラム全てが余談だけど)先日、赤坂でカルロスゴーンが自身で運転中に軽い人身事故を起こして騒ぎになった。幸い相手のケガは打撲程度で大事に至らなかったのだが・・・・・何故か運転していた車はZでは無くポルシェだった。
 
 
4月1日追記
 
読者の方から(なんと中学2年生)御料車について情報を頂いたので調べてみた。
 
このコラムを書いた直後話は進んでいた。
次期御料車はやはり日産では無くトヨタに依頼されていた。
依頼されていたというのは少し違い、トヨタが自ら名乗りをあげたらしい。
宮内庁は現行車をまだ使いたいとの方向であったが、日産側から老朽化を理由に現行ロイヤルの引退をお願いしていたそうだ。
どんな場面でもトラブルを許されない車であるから仕方が無い事であろう。
 
やっぱりトヨタか・・・・・日産は既に純国産メーカーでは無いのである。
新型はトヨタの威信にかけて開発されるであろう、情報によると12気筒&電動モーターで走るハイブリッド。大切な場面での低速走行はモーターだけの無音走行を可能にするに違いない。現御料車プリンスロイヤルは当時2000万円程度で納入されていたそうだ。
現在の金銭で2億?今回の車も・・・・・
このような車の詳細は極秘である。
それはテロ対策のため相当な防弾、防爆弾装備を施すからだ。
 
新型いつお目にかかれるのかな?
乗せてくれないかな・・・・・


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