父親がガンで死んでから今年の秋で５年になる。肝臓ガンだった。

父は酒を飲むわけでも無い、飲んだとしても缶ビール一本。

不摂生ではなく、家族の中でも人一倍健康に気を遣う人だった。

 

もう１１年も前のある日、熱が下がらず風邪と思った父は近所のかかりつけ医院に行った。血液検査の結果、即大きな病院で検査をしてもらうように紹介状をもらった・・・・・

順天堂に検査入院、結果は末期の肝臓ガン。

エコーに映し出された肝臓の中には、まるでピンポン玉の様に大きくなったガン細胞が姿を現していた、その直径約８、５センチ。

他の肝臓の大部分も小さなガンでいっぱいだった。

 

手術は不可能・・・早くて三ヶ月、長くても余命半年と宣告された。

 

母はその頃までＳ国際病に勤めていたという事もあり、いかに化学療法による末期ガン治療が無駄な事なのか、患者を苦しめるだけなのかを知っていた。

そのために即病院は退院させた。

俺は父にガンである事、後半年の命である事を告げるべきだと言った、しかし母はどうしてもそれを拒み、結局「肝臓周りの血管腫」という事にして本人に告げた。

それを父に告げる母は全てを覚悟していたのだろう。

 

何か方法は無いだろうか？

当時、今のようにインターネットがあるわけでも無い。

俺は近くの本屋で一冊の本をみつけた。

「見えてきたガンの征服」という題名のその本には「Ｓ式免疫療法」という方法でガンを征圧する事が出来ると書かれていた。

早速それを読み母に告げるが「効くわけが無い」と素っ気ない・・・・・Ｓ病院で多くのガン患者の死を目の前にしてきた母にとっては当然の反応だったのかもしれない。

 

もう治らない、奇跡でも起きない限り・・・

 

悪い事は重なるもので、以前から闘病していた祖父が心臓疾患で亡くなった。

「出来る事なら俺が代わってやりたいよ」と母に言い残して。

その時点で長くて余命半年と宣告されてから二ヶ月が過ぎていた。

もう考えている余裕は無かった。

 

祖父の通夜の日、Ｓクリニックの受診が出来た。

横浜、関内駅近くにあるそのＳクリニックには日本全国はもちろん韓国や台湾からも多くの人達が噂を聞いてやって来ていた。

「本人が歩いて来られる事」「化学療法（抗ガン剤）は一切中止する事」

この二つが条件だった。

 

免疫療法とは簡単に説明すると、精製された他人のリンパ球ををごく僅かに注射するという事だ。ガン細胞はウイルスの様に外部から体内に入って来た訳では無い。

元々自分自身の細胞である、自分自身の細胞だからこそ自己免疫が効かないのである。それを逆手に取って自己免疫を騙すのが免疫療法である。つまり他人のリンパ球がガン細胞を敵とみなしてマーキングした事により、自己免疫がその外部からのリンパ球ごと敵とみなしてガン細胞を攻撃するのである。

本来は予備注射を行ってから本注射をするのであるが父親の場合一刻を争う。

即本注射が打たれた。一ヶ月にわたって３回の注射を受けた。

 

奇跡は起こった。

 

８センチ以上あったガンは大きく形を崩し始め、周りの小さなガンは消えかかっていた。

余命半年の期日は過ぎようとしていた。

 

周囲の心配をよそに本人は元気そのもの、「水虫が治った」と喜んでいる。

ガンとは知らず、免疫療法によって自己免疫力が飛躍的に上がった事で身体の色々な部分が活性化されたのだ、視力まで上がるとは不思議な事である。

人間の身体には、まだまだ現代医学では解き明かせない不思議な力が隠されているんだと思った。

 

本人は何も知らないまま、再び家庭内に平和がやって来た。

 

つづく